
レーザアブレーションとは
レーザアブレーションとは、固体から選択的に物質を除去する加工技術です。様々なレーザを利用し、金属や半導体、ガラス、ポリマーなど幅広い材料に対応可能です。
レーザアブレーションの原理
レーザアブレーションの原理は、レーザー光が物質に照射される際に生じる物質の蒸発や削除を基盤としています。具体的には、レーザ光が対象物質に照射されることにより、高エネルギーの光子が物質の原子や分子に吸収され、これらの粒子がエネルギーを得て状態変化を起こします。この過程で、表面が蒸発し、微細な粒子やガス状の物質が発生します。
金属材料とレーザアブレーション
金属材料とレーザアブレーションの関係は、材料科学やエンジニアリングの分野で非常に重要です。金属に対するレーザアブレーションは、特に金属表面の処理や改質を行う際に広く利用されています。このプロセスでは、レーザ光が金属の表面に照射されることで、表面の自由電子がエネルギーを吸収し、その結果、金属内部の格子振動が強化され、温度が急激に上昇します。
具体的には、レーザ光の光子は金属原子との相互作用を通じてエネルギーを伝達し、ある閾値を超えると、金属が溶融したり、さらには蒸発したりすることがあります。例えば、アルミニウムや銅などの金属の場合、特定の波長のレーザーを使用することで、精密な加工や金属膜の形成が可能です。これにより、微細構造の加工が実現できます。
このプロセスの利点は、非接触での材料加工が可能な点と、高い選択性で特定の部位のみを処理できる点です。例えば、レーザアブレーションを用いることで、必要な部分だけを高温で処理し、周囲の材料に対する熱影響を最小限に抑えることができます。これにより、精密な部品の製造や修理が可能となります。
さらに、金属のレーザアブレーションは、異なる金属や合金に対しても応用できるため、バラエティに富んだ製品設計が促進されます。例えば、レーザアブレーションを使用して製造された微細な金属部品は、自動車や航空宇宙産業における軽量化や強度向上に寄与しています。
半導体とレーザアブレーション
レーザアブレーションは、特に半導体材料に対してその効果を発揮する技術です。半導体材料を対象にした場合、レーザ光が持つ波長やエネルギーが重要な役割を果たします。半導体は、バンドギャップと呼ばれる電子が存在しないエネルギー領域を持っています。このバンドギャップが、レーザの格子エネルギーよりも大きい場合、レーザ光は半導体に強く吸収され、局所的な加熱や物質の蒸発を引き起こすのです。
具体的には、例えばシリコンのような一般的な半導体の場合、バンドギャップは約1.1 eVです。これに対し、短波長のレーザー光を照射することで、より高いエネルギーを持つ光が使われます。波長が短いほどエネルギーは高くなるため、例えば1064 nmのNd:YAGレーザーや、355 nmの青色レーザーを用いることで、シリコンのバンドギャップを超えるエネルギーが供給され、精密な加工が可能となります。このように、レーザアブレーションを行う際には、照射するレーザーの波長とエネルギーを慎重に選定し、対象物の特性を考慮することが肝要です。
レーザアブレーション簡単な歴史
1960年 | Maimanがルビーレーザを発明 |
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1962年 | BreechとCrossがメリーランド大学で、レーザ照射による固体材料表面の切断や除去などの現象(レーザアブレーション)を初めて発表。 |
1965年 | Birnbaumがルビーレーザをゲルマニウム表面に照射し、レーザ誘起ナノ周期構造(リップル構造)を発見。 |
1990年代 | 自己モード同期とチャープパルス再生増幅法の技術革新により、高強度フェムト秒レーザが市販化。これにより、フェムト秒レーザを用いた非熱的な加工・改質が注目を集めるようになる。 |
参考元:2013 The Japan Society of Plasma
Science and Nuclear Fusion Research
レーザアブレーションの応用技術
レーザアブレーションは、材料の表面加工や微細加工において非常に有効な技術です。いくつかご紹介します。
微細加工
レーザアブレーションを用いた微細加工は、従来のレーザ加工に比べて、はるかに高い精度を誇ります。特に、微細な構造やパターンの制作に適しており、精密な材料削除が可能です。この技術は、レーザ光が対象物に照射されることで、材料を蒸発または剥離させ、必要な形状を形成するメカニズムに基づいています。
微細加工では、レーザの波長やパルス幅、照射条件を調整することで、加工の深さや形状を精密に制御できます。また、異なる材料特性に対応したレーザアブレーションを行うことで、多様な素材に対応した微細構造の加工が実現します。これにより、エレクトロニクスやバイオテクノロジーなどの分野での需要に応じた高度な加工が可能になります。
薄膜形成(PLD:Pulsed Laser Deposition)
レーザアブレーションにより、材料表面から元素を放出し、それを基板に堆積させることで薄膜を形成する技術がPLD(Pulsed Laser Deposition)です。この方法では、主にレーザを使用し、ターゲットとする材料が高温・高エネルギーによって蒸発し、それが基板上に冷却・凝縮して薄膜を形成します。
PLDの強みは、金属だけでなく、セラミックスや絶縁体など、多様な材料を薄膜化できる点です。これにより、特定の機能や特性を持った薄膜を簡単に作ることが可能になります。薄膜の厚さや組成も精密に制御できるため、様々な応用に応じた最適な条件で製造することができます。
超微粒子を創生
レーザアブレーションは、ターゲット素材から特定の元素を剥離し、高エネルギーのレーザ光を照射することで超微粒子を創生する技術です。このプロセスにより、素材の原子や分子が高温で励起され、微小な粒子が形成されます。
この技術は、ナノテクノロジーの分野において重要な役割を果たしています。超微粒子は、特異な物理的・化学的特性を持つため、様々な応用への展開が期待されています。特に、エレクトロニクスやバイオテクノロジーの分野での利用が進む中、レーザアブレーションによって得られる高純度の超微粒子は、新しい素材開発や機能性材料の創出に寄与します。
元素分析
レーザアブレーションは、レーザ光によって材料表面が局所的に蒸発させられるプロセスであり、この手法は特に元素分析において効果的です。レーザのエネルギーは、対象物の物理的特性によって異なりますが、適切な波長やパルス幅を選択することで、特定の元素を選択的に蒸発させることができます。
その結果、生成された微細な粒子や蒸気は、質量分析器や光学分析装置を用いて詳しく調査することができます。これにより、対象物に含まれる元素の種類や濃度を正確に特定することが可能となります。
レーザアブレーションによる元素分析は、高い感度と選択性を持っており、複雑な試料でも多成分分析が実現できます。
短波長光発生
レーザアブレーションにおける短波長光は、その高エネルギー特性により多くの利点を提供します。波長が短いレーザは、材料の表面へのペネトレーションが深く、精密な加工が可能です。そのため、薄膜形成や微細加工においては特に重宝されます。
短波長レーザは、医療分野でも重要な役割を果たしています。レーザー手術や治療において、患者の身体への侵襲を最小限に抑えることが求められる中で、この技術が利用されています。さらに、エネルギー密度の高い短波長光は、組織を迅速に蒸発させ、出血や痛みを軽減するため、外科手術においても非常に有用です。
レーザ核融合
レーザ核融合は、重水素と三重水素を含む固体燃料カプセルに高強度のレーザを照射し、即座に爆縮を引き起こすことで核融合反応を促進します。この過程で、発生する高温高圧の環境は、エネルギーを引き出すための条件を整えます。重要な役割を果たすのが、爆縮プラズマの生成であり、ここにレーザアブレーション技術が活用されています。
レーザアブレーション技術が活用される産業
レーザアブレーション技術は、多岐にわたる産業で活用されています。特に医療分野では、レーザによる精密な加工が欠かせない装置の一部となっています。例えば、レーザによる組織の剥離や切除は、最小限の侵襲で治療を行うことが可能です。
また、半導体産業でもレーザアブレーションが重要です。微細加工による回路形成や薄膜の剥離には、高出力のレーザが用いられ、エネルギー効率の高い加工が実現します。特にフェムト秒レーザは、短い波長で高精度の加工を可能にし、さまざまな材料に対応できます。
さらに、プラズマ技術を使用したレーザー加工は、樹脂や金属の表面処理においても効果的です。レーザアブレーション技術は、多くのメーカーによって開発され、各種産業でのニーズに応じた応用が進められています。
SEISHINのレーザアブレーションICP-MS
SEISHINでは得意とする、主に半導体業界向けのレーザ加工技術を活用して、成分分析用の分析前処理機を開発しました。レーザアブレーションによる超微細加工によりこれまでは難しかったサンプルの分析がこれまでよりも短時間で可能となりました。

西進商事コラム編集部
西進商事コラム編集部です。専門商社かつメーカーとしての長い歴史を持ち、精密装置やレーザー加工の最前線を発信。分析標準物質の活用も含め、業界をリードする知見を提供します。