2025.04.18

レーザアブレーションとは?|意味や仕組みを分かりやすく解説

レーザアブレーションとは?|意味や仕組みを分かりやすく解説

レーザアブレーションを利用した分析前処理機

前処理の手間を省き、固体サンプルのままレーザで前処理。LASER BLENDER

レーザアブレーションとは

レーザアブレーションとは、固体から選択的に物質を除去する加工技術です。様々なレーザを利用し、金属や半導体、ガラス、ポリマーなど幅広い材料に対応可能です。

レーザアブレーションの原理

レーザアブレーションのしくみは、レーザの光を使って、物質を蒸発させたり削ったりすることにあります。もう少し詳しくいうと、レーザの強い光が材料に当たると、その光の中にある高いエネルギーの光子※1が、材料の中の原子や分子に吸収されます。

このとき、エネルギーを吸収した原子や分子は活性化※2して、普段とは違う状態に変わります。例えば、すごく熱くなってしまったり、その場から飛び出したりします。このようにして、材料の表面が少しずつ削られていく、これがレーザアブレーションの基本的な流れです。

このプロセスを利用することで、精密な加工や除去が可能になり、微細な加工を求められる分野で広く活用されているのです。

※1 光子 → 光のエネルギーの粒(つぶ)のようなもの。
※2 活性化 → 元気になりすぎて、安定していられなくなるイメージ。

加工されるまでの流れ

1. レーザ光を当てる 強いレーザの光を、材料の表面にピンポイントで当てます。
2. エネルギーが集中する レーザの光はエネルギーが高いので、当たった部分が一気に熱くなります。
3. 材料が蒸発・飛び散る 一気に加熱されたことで、材料の表面が蒸発したり、小さな粒子となって飛び散ったりします。
4. 表面が削れる これを「アブレーション」と呼び、こうして材料の表面を少しずつ削ることができるのです。

レーザアブレーションの加工イメージ(動画)

動画 0:19〜発振されたレーザがサンプルに当たりエアロゾル粒子(超微粒子)が発生する様子

レーザアブレーションのメリット

1. 非接触加工で材料を傷めにくい
レーザー光で加工するため、工具が直接材料に触れません。
そのため摩耗がなく、材料の表面をきれいに加工でき、特に精密部品の加工に向いています。機械的ストレスがないので、脆い素材にも使いやすいのが特長です。

2. 高精度・微細加工が可能
レーザーのスポット径は非常に小さく、熱影響を最小限に抑えながら、ミクロン単位の精密な加工ができます。
半導体や電子部品のような微細なパターン加工に適しています。

3. 幅広い素材に対応
金属だけでなく、ガラスやセラミック、プラスチックなどさまざまな素材に使用できます。特に、従来の加工方法では難しかった透明材料や高反射素材にもアプローチできる技術です。

4. 加工の選択性が高い
必要な部分だけにレーザーを照射できるので、無駄な部分を傷つけることなく狙った箇所だけを精密に加工できます。複雑な形状やデザインの加工にも柔軟に対応可能です。

5. クリーンな加工環境
切削油や化学薬品が不要なため、作業環境が清潔に保たれ、環境負荷も低減できます。作業後の洗浄や処理の手間も少なく済みます。

6. 加工スピードの向上(特に薄物)
薄い素材であれば高速加工が可能で、生産性の向上につながります。大量生産ラインでの効率化にも貢献します。

7. 多様な産業での応用
医療機器、エレクトロニクス、自動車部品、エネルギー関連、さらには航空宇宙産業まで、多彩な分野で活用されています。

加工材料とレーザアブレーションの関係

レーザアブレーション技術は、非常に多様な材料に対して適用できる加工手法です。材料の種類によってレーザーの波長や出力の調整が重要になります。特に、金属、半導体、プラスチック、ガラスなど、さまざまな素材でその特性を活かすことが可能です。

金属材料へのレーザアブレーション

金属材料へのレーザアブレーションは、製造業・自動車・航空宇宙・電子機器・装飾加工など、幅広い産業分野で活用されています。
ステンレス鋼やアルミニウムといった金属に対し、非接触かつ高精度で、切断・穴あけ・彫刻・マーキング・表面洗浄・塗膜除去といった加工が可能です。たとえば、塗装や接着の前処理としての表面処理、錆や腐食層の除去、製品ロット番号などの工業用マーキングにも使用されており、装飾目的の精密エッチングにも対応します。

加工では、適切なレーザー波長と出力を選ぶことで、金属の強度や表面品質を損なうことなく、微細な加工を実現できます。
一般的にはファイバーレーザやナノ秒LD励起固体レーザが使われ、熱に弱い薄板材料や精密用途では超短パルス(USP)レーザが選ばれることもあります。

半導体材料へのレーザアブレーション

半導体材料へのレーザアブレーションは、マイクロエレクトロニクス分野や半導体製造において、ウェハへのマーキング、エッチング、微細パターン形成、薄膜の剥離など、精密な加工が求められる用途で幅広く活用されています。
シリコンやガリウム砒素などの半導体は赤外線を透過する性質を持つため、ナノ秒LD励起固体レーザによる緑色やUV波長のレーザ照射が効果的です。また、材料のバンドギャップに合わせた波長選定により、局所的加熱と効率的な材料蒸発を実現し、高精度なアブレーション加工を可能にします。さらに、USP(ウルトラショートパルス)レーザは、半導体のより高度な微細加工や集積回路の故障解析における材料除去にも利用され、微細加工技術の高度化に貢献しています。

プラスチックやポリマーへのレーザアブレーション

プラスチックやポリマー材料へのレーザアブレーションは、比較的低いエネルギーで高精度な加工が可能であり、微細な彫刻やマーキングから医療用インプラントの表面加工、医療機器のコーティング除去、マイクロエレクトロニクス分野のSiPデバイス加工まで、幅広い産業で活用されています。
特に医療や電子機器部品製造では、素材への熱的・機械的影響を最小限に抑えつつ、高精度なパターン形成や除去加工を実現できるため、レーザアブレーション技術が不可欠です。
使用するポリマーの種類や加工速度の要求に応じ、ナノ秒レーザ、UVレーザ、USPレーザなど多様なレーザが選定され、最適な精密加工を可能にしています。

ガラスやセラミックへのレーザアブレーション

ガラスやセラミックなどの硬質材料に対するレーザアブレーションは、他の方法では難しい微細形状や高精度パターンの形成を可能にし、幅広い用途で活用されています。ガラス加工では、飲用グラスなどの装飾的なエッチングにCO₂レーザが一般的に使われ、ディスプレイや半導体分野で求められる高精度のエッチングにはCO₂レーザやUV LD励起固体レーザが利用されています。さらに、マイクロ流体デバイス製造では、微細流路や内部チャネルの形成にUV LD励起固体レーザやUSPレーザが不可欠で、USPレーザはガラス内部に直接チャネルを形成するユニークな加工も可能です。
セラミックへのレーザアブレーションも、電子機器や航空宇宙分野で重要な役割を果たしており、レーザーの高エネルギー密度を活かして局所的な加熱による精密切断やパターン作成が実現されています。これらの例からもわかるように、レーザアブレーションは材料の種類や求める加工精度によって最適なレーザの種類が異なり、幅広い分野で活用されている技術と言えます。

レーザアブレーションの応用技術

レーザアブレーションによって実現する多彩な加工技術をご紹介します。

微細加工

レーザアブレーションは、極めて高い精度を必要とする微細加工において、その力を発揮します。従来のレーザ加工では困難だった微細構造やパターン形成を、高精度かつ確実に実現できる技術です。レーザ光を照射することで、対象物の表面から不要な材料を蒸発・剥離させ、設計通りの形状を作り出します。

この加工では、レーザの波長やパルス幅を調整することで、深さや細部の形状をきめ細かくコントロール可能です。さらに、素材ごとの特性に最適化されたレーザアブレーションを行うことで、多種多様な材料に対応した微細加工が求められる、エレクトロニクスやバイオテクノロジー分野でも活躍しています。

薄膜形成(PLD:Pulsed Laser Deposition)

PLD(パルスレーザ蒸着)は、レーザアブレーションの応用により、材料から放出された粒子を基板に堆積させ、薄膜を形成する技術です。高エネルギーのレーザ照射により、ターゲット材料が一瞬で蒸発し、その蒸気が基板上で冷却・凝縮することで精密な薄膜が作られます。

この手法は、金属だけでなく、セラミックや絶縁体など幅広い材料に対応できるのが特長です。機能性に優れた薄膜を、厚さや組成まで細かく制御しながら製造できるため、電子デバイスや光学機器など、様々な分野においてPLDの重要性が高まっています。

超微粒子を創生

レーザアブレーションは、超微粒子の生成にも応用されています。ターゲットとなる素材に高エネルギーのレーザを照射することで、ナノサイズの微粒子を創り出す技術です。このプロセスで、素材中の原子や分子が励起され、高純度で均一な超微粒子が形成されます。

こうして得られた超微粒子は、ナノテクノロジー分野での応用が期待されており、特異な物理的・化学的性質を活かして、新素材や機能性材料の開発に貢献しています。とりわけ、エレクトロニクスやバイオテクノロジーの先端分野において、その重要性は増す一方です。

元素分析

レーザアブレーションは、レーザ光によって材料表面が局所的に蒸発させられるプロセスであり、この手法は特に元素分析において効果的です。レーザのエネルギーは、対象物の物理的特性によって異なりますが、適切な波長やパルス幅を選択することで、特定の元素を選択的に蒸発させることができます。

その結果、生成された微細な粒子や蒸気は、質量分析器や光学分析装置を用いて詳しく調査することができます。これにより、対象物に含まれる元素の種類や濃度を正確に特定することが可能となります。

レーザアブレーションによる元素分析は、高い感度と選択性を持っており、複雑な試料でも多成分分析が実現できます。

レーザアブレーション技術を元素分析に応用- LASER BLENDER

測定サンプルに含まれる元素を3Dマッピング化も可能。

短波長光発生

レーザアブレーションに用いられる短波長光は、その高エネルギー特性により、加工精度と効率の両面で大きな利点を発揮します。光のエネルギーは波長が短くなるほど高くなるという性質があり、超短波とも呼ばれる短波長のレーザは、1つ1つの光子が持つエネルギーが高く、材料表面に対して深く鋭い作用を及ぼします。このため、微細かつ精密な加工が可能となり、薄膜形成や微細構造の加工といった高度な技術分野で特に重宝されています。

また、短波長レーザは、医療分野においても重要な役割を果たしています。レーザー治療や外科手術では、身体への負担をできるだけ小さくすることが求められる中、短波長光が持つ高いエネルギー密度が、組織を迅速に蒸発させ、出血や痛みを抑える効果を発揮します。その結果、患者への侵襲を最小限に抑えつつ、正確な処置が可能となるため、医療の現場でも広く活用されています。

レーザ核融合

レーザ核融合は、重水素と三重水素を含む固体燃料カプセルに高強度のレーザを照射し、即座に爆縮を引き起こすことで核融合反応を促進します。この過程で、発生する高温高圧の環境は、エネルギーを引き出すための条件を整えます。重要な役割を果たすのが、爆縮プラズマの生成であり、ここにレーザアブレーション技術が活用されています。

レーザアブレーション技術が活用される産業

レーザアブレーション技術は、多岐にわたる産業で活用されています。特に医療分野では、レーザによる精密な加工が欠かせない装置の一部となっています。例えば、レーザによる組織の剥離や切除は、最小限の侵襲で治療を行うことが可能です。

また、半導体産業でもレーザアブレーションが重要です。微細加工による回路形成や薄膜の剥離には、高出力のレーザが用いられ、エネルギー効率の高い加工が実現します。特にフェムト秒レーザは、短い波長で高精度の加工を可能にし、さまざまな材料に対応できます。

さらに、プラズマ技術を使用したレーザー加工は、樹脂や金属の表面処理においても効果的です。レーザアブレーション技術は、多くのメーカーによって開発され、各種産業でのニーズに応じた応用が進められています。

SEISHINのレーザアブレーションICP-MS

SEISHINでは得意とする、主に半導体業界向けのレーザ加工技術を活用して、成分分析用の分析前処理機を開発しました。レーザアブレーションによる超微細加工によりこれまでは難しかったサンプルの分析がこれまでよりも短時間で可能となりました。

レーザアブレーションを利用した分析前処理機

前処理の手間を省き、固体サンプルのままレーザで前処理。LASER BLENDER

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西進商事コラム編集部

西進商事コラム編集部です。専門商社かつメーカーとしての長い歴史を持ち、精密装置やレーザー加工の最前線を発信。分析標準物質の活用も含め、業界をリードする知見を提供します。