
YAGレーザとは 仕組みや特徴・用途を説明
YAGレーザーは、イットリウムとアルミニウムから成る結晶構造にネオジムを添加した固体レーザーで、波長は1,064nmです。このNd:YAGレーザーは主に金属の溶接に利用され、特に電子部品や自動車部品の加工で効果を発揮します。従来の液体レーザーと比べ、集光性が高く経年劣化が少なく、安定した発振が可能です。また、ランニングコストも低いため、導入が容易です。
YAGレーザーの特性には、波長の特性や出力の高さが挙げられ、金属溶接、素材加工、美容医療などで活用されています。
YAGレーザーの仕組み・原理
YAGレーザーの仕組みは、主に励起状態の原子の遷移によって光を増幅する原理に基づいています。まず、励起光がYAG結晶に照射され、結晶中のネオジウム原子が励起状態に移行します。この不安定な状態から、原子は低いエネルギー状態へ戻る際にエネルギー差分の光を放出します。この放射された光は、他の励起状態にある原子に対して衝突し、同様の遷移を引き起こします。
こうして、光が何度も反射を繰り返しながら増幅され、最終的に高エネルギーのレーザー光として取り出されます。YAGレーザーは、その特徴として単色性、指向性、エネルギー密度の高さを持っており、非常に強力な光を生成します。YAGレーザーは固体レーザーに分類され、主に結晶体の中に添加されたネオジウム原子によって光を発生させる仕組みとなっています。
YAGレーザーの特徴・特性
YAGレーザーは、優れたコヒーレント性とエネルギー密度を持ち、多くの分野で応用される固体レーザーです。特に、そのパルス特性が顕著で、非常に短い時間間隔での点滅が可能です。これにより、加工精度が高く、熱影響が少ないため、非常に扱いやすいレーザーとされています。
また、YAGレーザーは波長が1064nmであり、これにより色素の吸収特性に優れ、さまざまな素材に対して高い効果を発揮します。出力に関しては、単一の発振器で高出力を得ることができるため、工業用途にも適しています。
YAGレーザーの波長
YAGレーザーには、いくつかの異なる波長があります。基本波長は1,064nmで、これは近赤外光に分類され、肉眼では捉えることができません。この基本波をリン酸チタニルカリウム(KTP)結晶に通すことで、第二高調波である532nmが生成されます。この波長はグリーンレーザーとして視認可能であり、主にソフトマーキングや微細加工で広く使われています。
さらに、第三高調波の355nmは紫外線レーザーであり、視認することはできませんが、LCDの印字やリペア加工に利用されます。第四高調波の266nmは、リン酸二水素カリウム(KDP)結晶を使用することで得られ、さらなる特殊用途に応じた加工が可能となります。
YAGレーザーの出力
YAGレーザーは大出力化が進んでおり、最大出力は650mJ/1064nm、繰り返し周波数は10Hzを実現しています。体積あたりの出力も高いため、小型の共振器でも強力なレーザー出力が得られ、研究や産業の分野で幅広く利用されています。
YAGレーザーの出力は他のタイプのレーザーと比較して独自の特性があります。液体レーザーは発光スペクトルが広く、超短パルスレーザーに対応できますが、光媒質の寿命が短いデメリットがあります。これに対して、YAGレーザーはより長寿命で安定した出力を提供します。
また、気体レーザーは媒質が均質で損失が少ないためレーザー効率は高いものの、エネルギー供給がYAGレーザーに比べて大きくなることが欠点です。半導体レーザーは低出力向けの用途が多く、コストパフォーマンスには優れていますが、高出力の用途には向きません。これらの違いを踏まえ、YAGレーザーは産業や医療の現場で重宝されています。
YAGレーザーはどんな用途で使われる?
YAGレーザーは、さまざまな分野で幅広く利用されています。特に、溶接や加工においては金属やプラスチックの接合・成形に優れた性能を発揮します。高い出力を持つため、厚材の処理にも対応できます。
また、美容や医療の分野でも重要な役割を果たしており、皮膚治療や脱毛などに使用されています。特に、皮膚へのダメージが少ないため、安全性が高いと評価されています。
加工
YAGレーザーは、主に金属部品加工や材料の穴あけ、切断に利用されます。近赤外光であるYAGレーザー光は、集光することで非常に高いエネルギー密度を実現し、金属に対して効果的な加工を行うことができます。
この特性により、非接触で短時間での金属加工が可能となり、生産性の向上に寄与します。特に、精密な加工が求められる分野において、その効果は顕著です。また、厚さや形状に応じた適切な調整を行うことで、より多様な加工が実現できます。
溶接
YAGレーザーは、金属部品の溶接に広く用いられています。特に、自動車産業や航空機産業、鉄鋼業界では、スポット溶接やシーム溶接、さらにはテーラードブランク溶接といったさまざまな技術が利用されています。
この技術の大きな特徴は、自動化が容易である点です。YAGレーザーを用いることで、光ファイバーを介して溶接プロセスを自動化することが可能になります。これにより、1台のレーザー溶接機で同時に複数の箇所を溶接することができ、さらに時間差を利用して複数の機械が連携して作業を行うことも可能です。
このような特徴により、効率的で高精度な溶接作業が実現され、製造現場での大きな利点となっています。YAGレーザーを活用することで、製品の品質向上と生産のスピードアップが図れます。
美容・医療
YAGレーザーは、特に美容や医療の分野で幅広く活用されています。中でも、Er:YAGレーザーが重宝されており、肌の若返りやしみ、しわの治療に効果を発揮します。このレーザーは、皮膚の浅い部分へエネルギーを届けることで、コラーゲンの生成を促進し、肌の張りや透明感を高める働きを持ちます。また、手術などの際には、出血を抑えながら精密な切開を行うことができるため、患者への負担も軽減されます。美容施術から外科的治療に至るまで、幅広い用途に応えるYAGレーザーは、多くの医療現場で高く評価されています。
YAGレーザーの構成
YAGレーザーの構成は、主にレーザーダイオード(LD)電源、パルスジェネレータ、およびレーザ励起プラズマ光源から成り立っています。
LD(レーザダイオード)電源
LD(レーザダイオード)電源は、ファイバーレーザーを効果的に駆動させるために不可欠な要素です。特に、パルスジェネレータ搭載型のLD電源は、多くの利点を提供します。パルス幅は最小で500psから連続波まで制御可能で、外部TTL信号に応じて高精度なパルスを生成できます。
この電源は、ピーク電流の選択肢が豊富で、最大1500mA、3500mA、9000mAのモデルがあります。また、繰り返しレートは最大4MHzで、オプションとして10MHzや250MHzも提供されています。TECコントローラが統合されているため、レーザーダイオードの温度を安定させることができ、立ち上がり時間や立ち下がり時間は500ps未満と優れています。
さらに、ピーク電力の調整はUSB接続のWindowsアプリケーションやアナログ信号、手動で実施可能で、複数のAerodiode製品を同時に駆動・コントロールすることも可能です。多様なレーザーダイオードタイプに対応しており、特定のモデルには専用ソケットも付属します。
パルスジェネレータ(パルス発生機)
パルスジェネレータは、電気信号を生成するための電子回路や機器であり、特にパルスを生成する機能を持ちます。主にレーザーダイオード(LD)などの光源や他の電気機器に接続され、それらの機器に電気エネルギーを供給する役割を果たします。
レーザ励起プラズマ光源(LD励起光源)
YAGレーザーの励起光源として、レーザ励起プラズマ光源が重要な役割を果たします。この光源は、中心波長808nmの近赤外レーザーを利用し、さまざまな出力が可能です。具体的には、シングルモードの250mWや、マルチモードの10W、35W、60W、100Wが存在し、それぞれ異なるパルス幅に対応しています。
この光源は、高い出力を持ちながら狭いパルス幅を維持できるため、精密な加工や溶接に適しており、産業界で広く利用されています。さらに、特定のバージョンでは、波長の幅を±1nmとすることができ、より高精度な応用も可能です。
YAGレーザー光の注意点
YAGレーザー光は、非常に強力であるため、取り扱いには厳重な注意が求められます。特に、JISC6802「レーザー製品の安全基準」に基づき、YAGレーザーはクラス4に分類され、このクラスは最も危険度が高いとされています。反射光も危険であり、誤って目に入ると、網膜や視神経、さらには目の中心部が損傷する可能性があります。
このような視覚への影響に加え、水晶体を損傷させることによって白内障が発生するリスクも存在します。したがって、YAGレーザーを使用する際には、適切な保護具を着用し、安全対策を講じることが不可欠です。特に、視覚への影響を最小限に抑えるために、視界を遮る保護メガネの着用が推奨されます。また、使用する環境にも配慮し、周囲に照射しないように設定を行うことが重要です。
まとめ
YAGレーザーは、その特性や応用の幅広さから、多くの分野で重宝されています。特に、溶接や加工、美容・医療などでの利用が進んでおり、その精密性と効率性が求められています。YAGレーザーの波長や出力によって、さまざまな素材に対応できるため、多様なニーズに応えることが可能です。今後も、技術の進化とともに新たな応用が期待されます。

西進商事 コラム編集部
西進商事コラム編集部です。専門商社かつメーカーとしての長い歴史を持ち、精密装置やレーザー加工の最前線を発信。分析標準物質の活用も含め、さまざまなコラム発信をします。