近年、5G基地局や衛星通信システムの普及とともに、高周波・高出力デバイスへの需要が急速に高まっています。その中心にあるのが、GaN(窒化ガリウム)を使った半導体デバイスです。特に「GaN on SiC」と呼ばれる構造は、RF(高周波)用途の電力増幅器において世界標準の地位を確立しつつあります。
この記事では、GaN on SiCウエハの特性と、5G・衛星通信向けデバイス設計において重要となるエピ構造のポイントを解説します。
なぜRF用途にGaN on SiCが選ばれるのか
GaNは、シリコン(Si)と比べて約3倍のバンドギャップを持つワイドバンドギャップ半導体です。この特性により、高電圧・高温環境でも安定して動作できます。
RF用途でGaN on SiCが採用される主な理由は3つです。
高い熱伝導率
SiC(炭化ケイ素)基板の熱伝導率は約490 W/(m·K)と、シリコン基板(約150 W/(m·K))の約3倍以上です。高出力動作時に発生する熱を素早く逃がせるため、デバイスの信頼性が格段に向上します。
高い電力密度
GaN HEMTは、シリコンベースのトランジスタに比べて1桁以上高い電力密度を実現できます。これにより、同じ出力を得るためのチップ面積を大幅に縮小でき、基地局装置の小型・軽量化に直結します。
高周波特性の優位性
GaNの高い電子飽和速度と2次元電子ガス(2DEG)構造により、数十GHz帯まで優れたゲイン特性を維持できます。5G(Sub-6GHz帯・ミリ波帯)や衛星通信(Ku/Ka帯)の周波数域をカバーする上で不可欠な特性です。
GaN on Siとの違い コストと性能のトレードオフ
GaN HEMTのエピウエハには、大きく「GaN on Si」と「GaN on SiC」の2種類があります。用途によって選択が異なります。
| 項目 | GaN on Si | GaN on SiC |
|---|---|---|
| 基板コスト | 低い(シリコン流用可) | 高い |
| 熱伝導率 | 約150 W/(m·K) | 約490 W/(m·K) |
| 耐圧特性 | 中程度 | 高い |
| 主な用途 | パワーデバイス(EV・電源) | RF電力増幅器・基地局 |
GaN on Siはコスト優位からパワーエレクトロニクス分野で急速に採用が拡大しています。一方で、RF用途——特に高出力・高信頼性が求められる5G基地局や衛星通信地上局——では、熱特性と周波数特性に優れるGaN on SiCが主流です。
RF用エピウエハを選ぶ際のポイント
GaN on SiCのエピウエハを評価・選定する際には、以下の仕様を確認することが重要です。
バリア層の材料と膜厚
バリア層(通常はAlGaNまたはInAlN)の組成と膜厚が、2DEGのキャリア密度と移動度を決定します。AlGaN系では、Al組成が高いほど電子密度は上がりますが、ピエゾ電界の影響も増大するため、最適化が必要です。
2DEGシート抵抗と移動度
2DEGのシート抵抗(Ω/sq)と移動度(cm²/V·s)は、デバイスのオン抵抗と利得に直結します。高品質なRF用ウエハでは、シート抵抗 ≤350 Ω/sq、移動度 ≥2000 cm²/V·sが目安となります。
XRDロッキングカーブ(結晶品質)
X線回折(XRD)によるロッキングカーブの半値幅(FWHM)は、エピ層の結晶品質を示す指標です。(002)方向で ≤300 arcsec、(102)方向で ≤400 arcsecが高品質ウエハの基準となります。この値が大きいほど転位密度が高く、デバイス特性や信頼性に悪影響を与えます。
表面粗さと反り
表面粗さ(Ra)が大きいとゲート形成などの後工程に影響します。反りはウエハハンドリングや露光精度に直接関わります。RF用途では表面粗さ ≤0.5 nm、反り ≤20 μmが一般的な要求水準です。
エピウエハの特性評価に使われる計測環境
高品質なGaN on SiCウエハを開発・評価するためには、RF特性を精密に計測できる環境が必要です。
エピウエハからデバイスを試作した後、実際の高周波特性はベクトルネットワークアナライザ(VNA)を用いてSパラメータとして測定されます。VNAはデバイスへの入出力信号の反射・透過特性を計測し、利得・インピーダンス・挿入損失などを定量化します。5G用途では数十GHz帯の測定が必要となるため、対応帯域と校正精度が選定の重要な基準となります。
VNA分野では、ローデ・シュワルツ・ジャパン株式会社が1.1 THzまで対応するVNAラインアップを展開しており、GaN HEMTなどのRFデバイス評価において広く活用されています。その他、キーサイト・テクノロジー(Keysight Technologies)なども高精度なRF計測環境を提供しています。
まとめ
GaN on SiCウエハは、5G基地局・衛星通信・軍用レーダーなど、高周波・高出力が求められる用途において不可欠な材料です。エピ構造の品質(2DEG特性・XRD・表面粗さ)が最終デバイスの性能を左右するため、ウエハ選定の段階から仕様を慎重に確認することが重要です。
SEISHINでは、パワーデバイス向けGaN HEMT-on-Si(200mm)およびRF用途向けGaN HEMT-on-SiC(100mm/150mm)のエピウエハを取り扱っています。カスタマイズ仕様への対応も可能ですので、用途に合わせてお気軽にご相談ください。
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西進商事コラム編集部
西進商事コラム編集部です。専門商社かつメーカーとしての長い歴史を持ち、精密装置やレーザー加工の最前線を発信。分析標準物質の活用も含め、さまざまなコラム発信をします。
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