2025.02.13

超短パルスレーザとは|フェムト秒・ピコ秒レーザの特徴や用途をわかりやすく解説

超短パルスレーザとは|フェムト秒・ピコ秒レーザの特徴や用途をわかりやすく解説

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超短パルスレーザー(フェムト秒レーザー、ピコ秒レーザー)とは

超短パルスレーザーとは、非常に短い時間幅で発振するレーザーのことを指し、主にフェムト秒レーザーとピコ秒レーザーが含まれます。これらのレーザーは、短パルスを利用することで、高精度の加工や高強度の光束を実現します。

超短パルスレーザーの特徴

超短パルスレーザの特徴は大きく分けて2点あります。パルス幅の短さと、発振波長の広さです。

パルス幅が短い

超短パルスレーザーは、極めて短いパルス幅を持つレーザーで、フェムト秒レーザーやピコ秒レーザーがその代表例です。フェムト秒は、1秒の1000兆分の1という非常に短い時間を指します。こうした超短パルスの特性は、レーザー加工や材料加工の精度や品質を大きく左右します。



レーザーの強度は、「パルスエネルギー ÷(照射面積 × パルス幅)」で決まります。つまり、同じエネルギーであってもパルス幅が短いほど、強度は高くなります。この性質により、超短パルスレーザーは非常に高いエネルギー密度を実現できます。例えば、チタンサファイアレーザーでは、平均出力1Wでピーク出力が100kWに達し、強度が10^11W/cm²を超えるものもあります。



こうした高強度レーザーが照射されると、わずか数ピコ秒の間に材料へ一気にエネルギーが伝わり、瞬時に蒸発させます。このとき、材料が熱でダメージを受ける前に「プラズマ蒸散」が起こるため、熱影響を最小限に抑えることができます。



その結果、超短パルスレーザーによる加工は非常に高精度かつ美しい仕上がりとなります。熱に弱い素材でも優れた加工が可能であり、特に微細加工分野では、その性能が大いに活かされています。

発振波長が広い

超短パルスレーザーにおける「発振波長の広さ」は、非常に重要な特性のひとつです。
この波長の広さは、短パルスレーザーの性能と密接に関係しており、高精度な材料加工を可能にする基本要素となっています。この関係性は、ハイゼンベルグの不確定性原理に基づいており、「パルス幅が短いほど、必要なスペクトル幅(波長範囲)は広くなる」という物理法則から説明できます。


現在、広く使用されているチタンサファイアレーザーは、660〜1180nmという広い発振波長範囲を持ち、この特性が先進的な加工現場で重宝されています。波長の幅広さによって、金属、ガラス、プラスチックなど、さまざまな材料を高精度で加工することが可能になります。


さらに、発振波長の広さは、非線形光学効果を利用した応用分野の拡大にも貢献しています。たとえば、波長変換を行う際には広いスペクトル幅が求められますが、この条件を満たすことで、目的の波長に応じたレーザー光を生成することが可能になります。この技術は、光通信、医療機器、レーザー治療など、さまざまな先端分野で活用されています。

ピコ秒・フェムト秒レーザーの種類

ピコ秒・フェムト秒レーザーは、超短パルスで照射されるレーザーの一種で、主にその波長や出力によって使い分けられます。微細加工や医療、美容、理化学の分野での利用が進んでいることから、非常に注目されています。

チタンサファイアレーザー

チタンサファイアレーザーは、発振波長が660nmから1100nmの範囲を持ち、ピーク波長は800nmです。この波長帯は、モード同期によって数フェムト秒の短パルスを実現するため、フェムト秒レーザーの代表的なモデルです。波長の広がりは、材料によって異なる特性を引き出すことができます。

YAGレーザー

YAGレーザーは、その波長が1064nmであるだけでなく、532nmや355nmといった高調波を他の波長として出力できます。この特性によって、特にプリント基板の微細加工や美容用途での応用が可能となります。特に美容分野では、シミやそばかすの除去に使用される「ピコ秒レーザー機器」にもYAGレーザーが用いられ、その効果が確認されています。

半導体レーザー

半導体レーザーは、出力の高い808nmや940nmであり、鋭い波長特性を持つため、さまざまな材料に対応した加工が可能です。アルミニウムなど、従来のレーザーでは難しかった素材の加工でも、その波長を活かして精度の高い加工を実現しています。

F2レーザー

最後に、F2レーザーは、157nmという非常に短い波長を持ち、熱に弱いポリマー樹脂に対する効果的な加工を可能にします。このように、ピコ秒及びフェムト秒レーザーは多様な条件やニーズに対応するために、それぞれ特有の波長と性質を持っており、幅広い分野での利用が期待されています。

ピコ秒・フェムト秒レーザーのメリット

まずは超短パルスレーザー(ピコ秒・フェムト秒レーザー)のメリットについてご説明します。

超微細加工ができる

超短パルスレーザーによる超微細加工は、精密な加工が求められる産業分野でますます注目を集めています。
特にナノメートル単位の高精度が求められる半導体製造や微細構造の形成において、超短パルスレーザーは従来の加工法を超える性能を発揮しています。これにより、これまで不可能だった形状や機能の製造も可能になっています。


超短パルスレーザー加工では、ピコ秒やフェムト秒といった極めて短い時間幅で脈動するレーザー光が使用されます。パルス幅が非常に短いため、レーザーが素材に接触する時間もごくわずか。これにより、周囲の材料に熱的な影響をほとんど与えることなく、高精度で繊細な加工が可能になります。特に、ガラスやセラミックといった熱に弱く、脆い素材の加工において大きな効果を発揮します。


応用例としては、精密光学デバイスの製造や、マイクロエレクトロニクス分野での微細配線形成などがあり、これにより小型かつ高性能なデバイスの実現が進んでいます。さらに、メモリー素子、フォトニクスデバイス、医療用センサーといった先端技術分野でも、超微細加工技術は幅広く活用されています。

あらゆる材料の加工ができる

超短パルスレーザーは、非常に短いパルス幅を持つことで、圧倒的なエネルギーを一瞬で材料に集中させることができます。
この特性により、他のレーザー技術では加工が難しいような材料にも対応でき、多様な素材への精密な加工を可能にしています。


代表的な例として、SiC(炭化シリコン)やGaN(窒化ガリウム)など、バンドギャップが大きく通常のレーザーでは加工が困難な材料があります。しかし、超短パルスレーザーなら、極めて短時間に強力なエネルギーを供給することで、こうした難加工材料にも微細な加工を行うことが可能です。


また、超短パルスレーザーは金属、セラミックス、プラスチック、ガラスなど、非常に幅広い材料に対応できます。この汎用性の高さは、電子デバイスや医療機器の製造、精密加工といった多様な分野での応用を後押ししています。


例えば、金属加工においては、従来の方法と比べて熱による影響が少なく、精密な切断や穴あけが可能です。これにより、加工品の品質向上にもつながります。また、プラスチックのような熱に弱い素材でも、変形を抑えながら加工できるため、精密部品の製造において非常に有効です。

超短パルス(ピコ秒・フェムト秒)レーザーの応用例(アプリケーション)

超短パルスレーザーは、ピコ秒やフェムト秒といった短い時間幅でエネルギーを集中させることで、非常に高い精度を実現する技術です。この特性により、幅広い分野での応用が進んでいます。

美容・医療分野における超短パルスレーザーの活用例

超短パルスレーザー、特にピコ秒レーザーやフェムト秒レーザーは、美容や医療分野において革新的な技術として注目されています。
これらのレーザーは「生体組織蒸散」と呼ばれる現象を利用し、さまざまな治療を可能にしています。生体組織蒸散とは、レーザー照射により発生したプラズマが膨張し、その衝撃波によって組織を破壊・除去するプロセスです。


ピコ秒・フェムト秒レーザーはパルス幅が非常に短いため、エネルギーの低いプラズマを発生させることができます。これにより、発生する衝撃波やキャビテーションバブルのエネルギーが抑えられ、周囲の健康な組織へのダメージを最小限に抑えることが可能になります。


この特性は、美容治療にも応用されており、シミの除去や肌の若返り、眼科手術など幅広い分野で活用されています。例えば、ピコ秒レーザーによるシミ治療では、肌の浅い層だけを狙って照射できるため、周囲の組織への影響を抑えつつ高精度な治療が実現します。これにより、術後の回復も早く、トラブルのリスクも低減されます。


医療分野では、フェムト秒レーザーを用いた白内障手術などの精密レーザー手術にも活用が進んでいます。フェムト秒レーザーを使うことで、従来よりも高い精度でレンズの切開が可能となり、よりスムーズな視力回復が期待できます。


このように、ピコ秒・フェムト秒といった超短パルスレーザーは、美容や医療において患者への負担を軽減しつつ、高い治療効果を発揮する技術として重要な役割を果たしています。

理化学アプリケーションでの活用例

超短パルス(ピコ秒・フェムト秒)レーザーは、理化学アプリケーションにおいて革新的なツールとして高く評価されています。
その特性を活かすことで、極めて短い時間スケールでの測定や制御が可能になり、分子レベルの現象をリアルタイムで観察することができます。


特に分光研究の分野では、化学反応中の動的プロセスや分子の振動を解析するために超短パルスレーザーが活用されています。ポンプ・プローブ法においては、反応の開始点とその後の変化を追跡できるため、分子反応の仕組みをより詳細に理解することが可能です。


この手法により、化学反応の中間体や遷移状態を直接観察できるようになり、新材料の開発や医療技術の進歩にもつながっています。また、超短パルスレーザーは幅広い波長域の光を生成できるため、特定の物質に最適な光を選んで高精度な分析を行うことができます。


近年では、高次高調波生成(HHG)や光パラメトリック増幅器といった技術の進展により、波長可変レーザーの開発が進み、物質内のさまざまな現象を深く研究する手段としても用いられています。これにより、多様な材料の光学特性を解析することが可能になり、超短パルスレーザーは物質科学の最先端研究において欠かせない存在となっています。


さらに、材料科学や生物学の分野でもその応用が広がっています。例えば、微細構造の解析や細胞内の動的挙動を調べる際に、超短パルスレーザーは極めて有効な手段として活用されています。

ガラス加工での活用

ガラスに対するピコ秒・フェムト秒レーザー加工では、選択的レーザーエッチング(SLE)が注目の技術として活用されています。
この技術により、ガラス内部に高精度な構造を形成することが可能となり、光通信機器や医療機器の製造において重要な役割を担っています。


SLEでは、まずピコ秒・フェムト秒レーザーによってガラス内部の構造を“改質”します。超短パルスレーザーの高いフォトンエネルギーを利用することで、ガラス内部の特定領域にエネルギーを集中させ、物理的な変化を引き起こします。


その後、化学エッチングの工程で、レーザーで改質された部分だけを選択的に除去します。このプロセスにより、微細なレンズアレイや流路など、複雑な内部構造の形成が可能になります。精密かつ非破壊的な内部加工を実現できる点が大きな特長です。


さらに、ステルスダイシング加工機を併用することで、ガラス表面にダメージを与えることなく、内部を高精度に切断することができます。これにより製品の歩留まりが向上し、特に割れやすい難加工材料に対しても高い効果を発揮します。

透明材料加工の新境地、SEISHINのステルスダイシング加工機

超短パルスレーザー(ピコ秒・フェムト秒)の特性を最大限に活用し、SEISHINのステルスダイシング加工機は、ガラスやサファイアといった透明材料の加工において高精度と高効率を両立しています。
従来の加工手法では難しかった領域にも対応可能となり、透明材料加工における新たなソリューションとして注目を集めています。


この革新的な装置では、「ステルスダイシング」と呼ばれる技術を採用。レーザー光を材料内部にだけ集光させることで、表面を一切傷つけることなく、内部から切断を行うことができます。これにより、製品の品質を維持しながら、歩留まりの大幅な向上が可能になります。


また、サファイアや強化ガラスなど、従来の機械加工では難しかった材料に対しても優れた加工性能を発揮。微細形状や複雑なパターンにも柔軟に対応できるため、より高度な精密加工を求める分野での活用が期待されています。


SEISHINは透明材料加工における独自技術を持ち、さらに透明材料以外の幅広いサンプルへの応用も可能です。詳細については、ぜひ関連記事をご覧ください。

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西進商事コラム編集部

西進商事コラム編集部です。専門商社かつメーカーとしての長い歴史を持ち、精密装置やレーザー加工の最前線を発信。分析標準物質の活用も含め、さまざまなコラム発信をします。