
- INDEX目次
目次【非表示】
- 1.窒化ガリウムとは
- 2.なぜいま、窒化ガリウムを使った半導体が必要なのか
- 2-1.高速スイッチング
- 2-2.高周波域での安定した動作
- 2-3.優れた熱制御
- 3.GaN半導体の性能は“ウエハ”から始まる
- 4.GaN(窒化ガリウム)パワー半導体の2つの構造
- 4-1.横型GaN(GaN-on-Si)
- 4-2.縦型GaN(GaN-on-GaN)
- 5.GaN半導体の主な利用分野
- 5-1.利用分野1:パワー半導体分野
- 5-2.利用分野2:レーザ分野
- 5-3.利用分野3:LED分野
- 6.パワー半導体にGaNを採用するメリット
- 6-1.充電速度の高速化
- 6-2.製品の小型化
- 7.GaNパワー半導体の採用デメリット・課題
- 7-1.コスト
- 7-2.量産難易度
窒化ガリウムとは
窒化ガリウム(GaN)は、ガリウム(Ga)と窒素(N)で構成される化合物半導体材料です。青色発光ダイオード(LED)の材料として広く知られており、2014年のノーベル物理学賞の受賞対象ともなりました。近年では、シリコンに代わる次世代のパワー半導体材料としても注目されています。GaNは、高い耐圧性、優れた熱伝導性、高速なスイッチング性能といった特性を持つため、電力変換の効率向上や機器の小型化に貢献が期待されています。
なぜいま、窒化ガリウムを使った半導体が必要なのか
窒化ガリウム(GaN)は、従来のシリコンに代わる次世代の半導体材料として注目されています。
特に、GaNを使ったトランジスタ(電流を制御する電子部品)は、いくつかの面でシリコン製よりも優れた性能を発揮します。
高速スイッチング
→ トランジスタの“電気のON・OFF”を超高速で行えるため、電力の無駄が少なくなります。
たとえば、GaNを搭載したパソコン用のACアダプターでは、コンセントの交流(AC)をスマホ向けの直流(DC)に変換する効率が良くなり、アダプターが熱くなりにくく、より小型になります。
高周波域での安定した動作
→ 現在主流の5G通信は、4Gよりも電波の振動が速い(=高周波)ため、対応する回路にも高速で安定した動作が求められます。
GaNは電子の移動が速いため、こうした高周波通信にも強く、5Gや将来の6G用途にも適しています。
優れた熱制御
→ 高効率で電流を流せるため、トランジスタの発熱を抑えることができます。
電子デバイスにとって「熱問題」は悩みの種。窒化ガリウムを利用することでこの問題を軽減することが
GaN半導体の性能は“ウエハ”から始まる
窒化ガリウム(GaN)を用いたトランジスタやパワー半導体の性能を引き出すには、まず“エピタキシャルウエハ”の存在が欠かせません。
エピタキシャルウエハとは、シリコンなどの基板の上にGaNやAlGaN層を高精度に積み重ねた構造を持ち、実際にデバイスを形成するためのベース材料として使われます。
中でも代表的な「GaN-on-Si」構造では、Si基板の上にバッファ層、GaN層、AlGaN層を順に成長させたウエハが使われ、これにより界面に「2次元電子ガス(2DEG)」が発生。
この2DEGが高い電子移動度を生み出し、HEMT(高電子移動度トランジスタ)といった高性能なGaNデバイスの実現を可能にします。
SEISHINでは、このGaN-on-Si構造に対応したエピタキシャルウエハを取り扱っており、高耐圧・高周波動作が求められる用途に最適な基板技術をご提供しています。
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GaN(窒化ガリウム)パワー半導体の2つの構造
GaNパワー半導体は、大きく分けて「横型(ラテラル)」と「縦型(バーティカル)」の2種類の構造があります。
横型GaN(GaN-on-Si)
横型構造では、デバイス上に形成されたチャネル層を横方向に電流が流れるため、チップ上の構造が比較的シンプルであり、既存の半導体製造ラインを活かしやすい点が特徴です。現在、多くのGaNパワー半導体製品にこの横型構造が用いられており、コンシューマ向け充電器や通信基地局など、幅広い分野で利用されています。代表的な横型GaNの構造には、「GaN-on-Si(シリコン)」「GaN-on-サファイア」「GaN-on-SiC(炭化ケイ素)」などがあります。これらはいずれも異なる基板上にGaN層を成長させる方式で、用途や製造コスト、対応電圧などの条件に応じて使い分けられています。このように、比較的安価でありながら、GaNの「高周波特性」を利用できているのが横型GaN(GaN-on-Si)ですが、この構造では、GaNとSiの間に絶縁性のバッファーが必要で、縦型導電ができず、高耐圧性の確保ができないという課題点があります。
縦型GaN(GaN-on-GaN)
縦型GaNは、次世代のパワー半導体として注目されている構造タイプです。従来の横型GaN(GaN-on-Si)では対応が難しい「高耐圧」「大電流」に優れた特性を持ち、電気自動車や再生可能エネルギーなど、高出力が求められる用途への活用が期待されています。
一方で、バルクGaN基板の高コストや量産の難易度といった課題も残っており、現時点では横型GaNが市場の主流となっています。
※バルクGaN基板=純粋にGaN(窒化ガリウム)だけで作られた単結晶の基板のこと
GaN半導体の主な利用分野
GaN半導体は、その優れた特性から様々な用途で活用が期待されています。特に、電力を効率よく制御するパワー半導体の分野で注目されており、EVやデータセンター、急速充電器などへの応用が進められています。また、光デバイスとしても優れており、高効率なLED照明やレーザーダイオードにも利用されています。技術革新により量産化も進んでおり、従来のSiやSiC半導体からの置き換えが進むと考えられています。これらの用途について詳しく見ていきましょう。
利用分野1:パワー半導体分野
GaNはパワー半導体の分野で幅広く活用が期待されている半導体です。1つ1つみていきましょう。
EVテクノロジー・EV充電器
GaN半導体は、EVのモーター駆動やEV充電器といった自動車分野での活用が期待されています。特にEV充電器においては、高耐圧が求められるため、大電圧・大容量の電力変換が可能なGaNの利点が活かされます。GaNを用いることで、充電器の小型化や高効率化、さらには充電時間の短縮に貢献することが期待されています。
日本政府は2020年10月に2050年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言し、これを受けて自動車分野ではEV化が推進されています。 2021年には、2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を実現するという「グリーン成長戦略」が策定されました。 このような背景から、GaN半導体のEV技術への応用は、脱炭素社会の実現に向けた重要な要素の一つとして注目されています。
5G(第5世代移動通信システム)
5G(第5世代移動通信システム)の普及に伴い、基地局や端末に搭載される高周波デバイスの性能向上が求められています。GaNは、電子の移動速度が速く、高周波領域での電力効率に優れているため、5Gシステムにおけるパワーアンプなどの用途で注目されています。従来のシリコン(Si)ベースのデバイスと比較して、GaNはより高い周波数で動作させることが可能であり、基地局の小型化や低消費電力化に貢献します。特に、5Gで利用される高い周波数帯において、GaNデバイスはその性能を最大限に発揮します。また、将来のポスト5Gを見据えた研究開発も進められており、GaNを用いたさらなる高出力・高周波なデバイスの実現が期待されています。
データセンター
データセンターの電力消費量は増加の一途をたどっており、その効率化は喫緊の課題です。 AI、クラウドコンピューティング、IoTなどの進展によりデータ処理量が増大していることが主な要因として挙げられます。 データセンターの電力消費の大部分は、サーバーの電力供給と冷却システムによるものです。
ここでGaN半導体が注目されています。GaNは高い電力効率を実現できる特性を持っており、データセンターにおける電力損失の削減に大きく貢献します。 GaNを用いた電源設計は、サーバーの電力効率を高め、運用コストの削減にも繋がるメリットがあります。 例えば、GaNベースのパワーマネジメントシステムを導入することで、効率が向上し、長期的に見てもエネルギーコストの大幅な節約が期待できます。 また、GaNデバイスは従来のシリコンデバイスに比べて小型・軽量化が可能なため、データセンター内の設置スペースの削減にも貢献し、冷却に必要なエネルギーの低減にも繋がります。
急速充電器・ACアダプター
スマートフォンやノートパソコンなどの充電に使われる急速充電器やACアダプターに、GaN(窒化ガリウム)が搭載されることが増えています。 GaNは従来のシリコンと比較して、高いエネルギー効率と低い電力損失を実現できるためです。特に、発熱を抑えられるというメリットがあります。GaNのさまざまなメリットについては別項でもまとめますが、GaNは熱伝導率が高く、発生した熱を効率的に逃がすことができるため、充電器本体が高温になりにくいのが特徴です。これにより、機器の故障リスクを減らし、より安全な充電が可能になります。
また、GaNは高いスイッチング周波数での動作が可能です。これにより、ACアダプター内部のコイルやコンデンサといった部品を小型化できます。結果として、充電器全体の小型化と軽量化が実現し、持ち運びにも便利になります。 GaN半導体を用いた充電器は、高出力でありながらコンパクトなデザインを実現しており、従来のシリコン充電器からの置き換えが進んでいます。
再生可能エネルギー(太陽光発電システム)
再生可能エネルギーの分野では、GaNパワー半導体の活用が進んでいます。
特に太陽光発電システムでは、発電された直流(DC)電力を家庭用の交流(AC)に変換するパワーコンディショナー(PCS)にGaNが搭載され、電力変換効率の向上に貢献しています。
ロボットとドローン
ロボットやドローンにおいては、軽量化と高効率化が常に求められています。GaNパワー半導体は、これらの要求を満たす技術として注目されています。GaNは高周波でのスイッチング性能に優れており、これによりモーター駆動回路の小型化と高効率化が実現できます。特にドローンにおいては、搭載機器の軽量化が飛行時間やペイロードに直結するため、GaNの小型・軽量性は大きなメリットとなります。例えば、GaNパワー半導体デバイスを搭載したドローン用ESC(Electric Speed Controller)は、従来のシリコン製ESCに比べて大幅な軽量化を実現した事例があります。
また、GaNはモーターの効率向上にも貢献します。高精度な制御が必要なサーボ駆動や、回転翼を持つドローンに使われるBLDC(ブラシレスDC)モーターの駆動において、GaNは高い周波数で効率的に動作し、トルクのばらつきを抑え、よりスムーズで正確な動作を可能にします。
さらに、GaNはマシンビジョン分野でも活用が期待されています。特に距離測定などに用いられるToF(Time of Flight)センサーやLidarシステムにおいて、GaNの高いスイッチング速度が、より高精度なデータ取得に貢献すると考えられています。 このように、GaN技術はロボットやドローンの性能向上に不可欠な要素となっています。
利用分野2:レーザ分野
GaNは青色レーザーの材料として古くから使われており、半導体レーザーを用いた各種製品に活用されています。現在はプロジェクターや内視鏡などの産業機器への応用が進んでいます。今後は、自動車のヘッドライトやヘッドマウントディスプレイへの利用も期待されています。GaNベースの半導体レーザーは、高輝度で指向性が高いため、これらの分野で新たな可能性を広げていくと考えられます。
利用分野3:LED分野
LED分野において、窒化ガリウム(GaN)は特に青色発光ダイオード(LED)の実現に不可欠な半導体材料です。長らく実現が困難とされてきた青色LEDは、名古屋大学の天野浩教授らの研究チームによって高品質なGaN結晶の作製技術が開発されたことで実現しました。この功績は2014年にノーベル物理学賞として認められています。GaNを基板としたLEDは、既存の赤色や緑色のLEDと組み合わせることで「光の三原色」が揃い、これにより白色を含めた様々な色の再現が可能になりました。
高輝度かつ省エネルギーなLED照明は、住宅やオフィスをはじめ、信号機や大型ディスプレイなど幅広い用途で普及が進んでいます。GaN製LEDは発光効率が高く、従来の白熱灯や蛍光灯に比べて消費電力を大幅に削減できるという特徴があります。 また、小型・軽量化や長寿命化も実現しており、メンテナンスコストの削減にも貢献しています。
パワー半導体にGaNを採用するメリット
パワー半導体にGaNを採用することで、いくつかのメリットが得られます。
充電速度の高速化
GaN(窒化ガリウム)は、従来のSi(シリコン)と比較して優れた物性を持つ半導体材料です。Siよりもバンドギャップが広いため、高耐圧かつ低損失での電力変換が可能になります。この特性は、ACアダプターなどの充電器に採用することで、充電速度の高速化に大きく貢献します。GaNを用いたACアダプターは、より高い周波数でのスイッチングが可能になり、電力変換効率が向上します。これにより、デバイスへの電力供給が効率的に行われ、充電にかかる時間を短縮できるのです。また、GaNは熱伝導率が高く、発熱を抑えられるため、充電器本体の温度上昇を防ぎ、安定した高速充電を実現します。
製品の小型化
GaN(窒化ガリウム)をパワー半導体に採用することで、製品の小型化が実現できます。これはGaNが高い周波数でスイッチング動作できる特性を持っているためです。スイッチング周波数を高くすると、電源回路に使用されるインダクタやコンデンサといった部品を小さくすることが可能になります。例えば、1MHzでのスイッチング動作により、変換器内の磁気部品を最大60%小型化できるという報告もあります。
また、GaNは低損失であり発熱量が少ないことに加え、熱伝導率が高いという優れた放熱性も備えています。 シリコンの熱伝導率が1.5W/cm・Kであるのに対し、GaNは2W/cm・Kと比較的高くなっています。 これらの特性により、冷却ファンなどの部品が不要となる場合があり、これも製品全体の小型化に貢献します。 同出力のシリコン搭載製品と比較して、GaNを用いた製品はよりコンパクトに設計することが可能です。
GaNパワー半導体の採用デメリット・課題
多くのメリットを持つGaNパワー半導体ですが、採用における欠点や課題も存在します。主な課題はコストと量産難易度です。
コスト
GaNパワー半導体の採用における大きな課題の一つがコストです。特に高品質なGaN結晶を製造するためのGaN基板が高価であることが実用化を難しくしています。パワー半導体の量産には、一般的に大口径の基板が必要とされますが、高品質なGaN結晶を高スループットで大口径化する製造技術がまだ完全に確立されていません。この技術的な課題がGaN基板の価格を高くしている要因です。現状、2インチのGaN基板の価格は高額であり、パワー半導体の量産に求められるコストレベルと比較すると大きな隔たりがあります。また、これまでシリコン(Si)向けに最適化されてきた半導体製造のプロセスをGaNに置き換える場合、設備の導入やプロセスの再構築に追加のコストと手間がかかることも課題として挙げられます。
量産難易度
GaNパワー半導体は、従来のSiと比較して優れた特性を持つ一方で、量産難易度が高いという課題を抱えています。GaNは1990年代から研究が進められていますが、高品質な結晶を安定的に製造することが難しい状況です。成長させたGaN結晶には、Siと比較して多くの欠陥が見られることが、実用化に向けた大きな課題となっています。
このような結晶欠陥は、デバイスの性能や信頼性に影響を与えるため、低減に向けた研究が不可欠です。 GaNの結晶成長は高温で行われますが、異なる材料の基板上に成長させる際に格子定数や熱膨張係数の違いから歪みや欠陥が生じやすいという問題があります。 安価なSi基板上にGaNを成長させるGaNオン・シリコン技術も開発されていますが、この場合も結晶の品質維持が重要となります。
現在、高品質で大口径のGaN結晶を製造するための研究が進められており、結晶欠陥の低減や成長速度の向上といった技術的な課題解決に向けた取り組みが行われています。
高品質なGaNエピウエハで、次世代デバイスを加速。
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西進商事コラム編集部
西進商事コラム編集部です。専門商社かつメーカーとしての長い歴史を持ち、精密装置やレーザー加工の最前線を発信。分析標準物質の活用も含め、さまざまなコラム発信をします。