2025.10.08

フォトレジストとは?半導体製造の鍵を握る日本の高性能技術を解説

フォトレジストとは?半導体製造の鍵を握る日本の高性能技術を解説

フォトレジストとは、半導体の製造に不可欠な感光性材料のことです。
この記事では、フォトレジストの基本的な役割や仕組みから、なぜ日本の技術が高い性能を誇り世界をリードしているのか、その理由までを詳しく解説します。
半導体は現代社会を支える基盤技術であり、その微細な回路パターンを形成する上でフォトレジストが果たす役割は極めて重要です。
日本の高い技術力が、世界の半導体産業の進化を支えています。

フォトレジストとは?半導体製造に不可欠な感光性材料

フォトレジストとは、光による化学反応を利用してパターンを形成するための感光性材料を意味します。
その仕組みは、主成分である高分子(樹脂)と感光剤、そして溶剤を混合した液体状の素材が、特定の波長の光に反応して性質を変化させるというものです。
光が当たった部分、あるいは当たらなかった部分が現像液に溶けることで、目的の形状を作り出します。
この性質を利用し、半導体の基板上に微細な電子回路を描くための「版」として機能します。

半導体の微細化を実現するフォトレジストの役割

フォトレジストは、半導体製造工程におけるフォトリソグラフィプロセスで中心的な役割を担います。
フォトリソグラフィは、半導体基板であるシリコンウエハー上に、光を使って回路パターンを転写する技術です。
フォトレジストは、この転写の際にマスクとして機能し、ウエハー上の特定の部分を保護したり、除去したりすることを可能にします。
半導体性能を決定づける回路解像度はフォトレジスト性能に大きく依存するため、その重要性は極めて高いです。

ステップ1:シリコンウエハーへのフォトレジスト塗布

半導体の製造におけるフォトリソグラフィ工程は、まずシリコンウエハーと呼ばれる基板上に液状のフォトレジストを均一に塗布することから始まります。
フォトレジストの塗布工程では、スピンコーターという装置が使われ、ウエハーを高速で回転させます。
その遠心力を利用して、フォトレジストをナノメートル単位の極めて薄い膜として均一に広げます。
この膜の厚さが均一であるほど、後の工程で形成される回路パターンの精度が高まります。
そのため、塗布技術は半導体の品質を左右する最初の重要なステップです。

ステップ2:回路パターンを焼き付ける露光工程

フォトレジストを塗布した後、回路パターンを転写する露光工程に移ります。
この工程では、回路パターンが描かれた原版であるフォトマスクをウエハーの上に重ね、光源からの光を照射します。
光源にはi線やKrF、ArFといったUVレーザーが用いられ、半導体の微細化が進むにつれて、より短い波長の光が使用されるようになりました。
最先端の製造ではEUVというさらに短い波長の光が使われ、フォトレジストはこれらの光に正確に反応して化学変化を起こし、マスクの回路パターンを精密に記録します。

ステップ3:不要な部分を除去する現像・エッチング

露光後、現像液を使ってウエハーを処理し、フォトレジストの不要な部分を溶解除去します。
これにより、ウエハー上には露光によって転写された回路パターンがレジスト膜として形成されます。
次に、このレジストパターンを保護膜として、露出したシリコンウエハーの表面を薬品やガスで削るエッチングを行います。
エッチングによって回路がウエハーに刻み込まれた後、最後に剥離液という専用の溶剤を用いて、役目を終えたフォトレジストを完全に取り除きます。
この一連のプロセスを経て、半導体チップの複雑な構造が作られます。

フォトレジストの主な種類とその特徴

フォトレジストは、光への反応の仕方の違いによって、主に「ポジ型」と「ネガ型」の2種類に分類されます。
この違いは、光が当たった部分の化学構造がどのように変化するかに基づいています。
ポジ型は光が当たった部分が現像液に溶けるタイプであり、ネガ型は逆に光が当たった部分が硬化して現像液に溶け残るタイプです。
それぞれの特徴によって解像度やコスト、耐薬品性などが異なるため、製造する半導体の種類や用途に応じて使い分けられています。

露光した部分が溶解するポジ型フォトレジスト

ポジ型フォトレジストは、光が当たった部分の化学構造が分解され、現像液に溶解しやすくなる性質を持ちます。
このため、露光に用いたフォトマスクのパターンが、そのまま忠実にウエハー上のレジストパターンとして形成されます。
ポジ型は、フォトマスクと寸分違わぬ形状を転写できることから解像度が非常に高く、微細な回路パターンの形成に適しています。
現在、高性能なCPUやメモリといった最先端の半導体製造においては、このポジ型フォトレジストが主流として広く使用されています。

露光した部分が硬化するネガ型フォトレジスト

ネガ型フォトレジストは、ポジ型とは対照的に、光が当たった部分で化学反応が起こり、高分子が架橋することで硬化し、現像液に溶けにくくなる性質を持ちます。
光が当たらなかった部分が現像で除去されるため、フォトマスクのパターンとは白黒が反転したネガパターンが形成されます。
ネガ型は、一般的にポジ型よりも解像度で劣るものの、密着性や耐薬品性に優れているという利点があります。
また、製造コストを抑えられる場合もあるため、特定の半導体や電子部品の製造工程で活用されています。

世界の半導体市場を支える日本のフォトレジスト技術

世界の半導体市場において、フォトレジストは極めて重要な材料であり、市場規模は拡大を続けています。特に、最先端の半導体製造に不可欠な高性能フォトレジストの分野では、日本企業が高い技術力と市場シェアを持っています。例えば、EUV露光用レジストにおいては日本企業が市場を独占しているとされ、フォトレジスト全体でも日本企業が世界市場の50%から80%程度のシェアを占めていると見られています。JSR、東京応化工業、信越化学工業、住友化学、富士フイルムなどの日本企業が主要サプライヤーとして挙げられ、これらの企業が世界の半導体産業のサプライチェーンを支える不可欠な存在となっています。

理由1:極限まで不純物を取り除く品質管理能力

日本企業がフォトレジスト市場で高い競争力を持つ理由の一つは、極限まで不純物を取り除く徹底した品質管理能力にあります。
半導体の回路がナノメートル単位で微細化するにつれて、材料に含まれる金属イオンや微粒子などのごくわずかな不純物が、製品の欠陥に直結します。
日本のメーカーは、長年の研究の歴史の中で培われた高度な合成・精製技術を駆使し、原料の段階から製品に至るまで、不純物をppbレベルで管理しています。
この徹底した品質へのこだわりが、世界中の半導体メーカーからの高い信頼を獲得しています。

理由2:材料から製造装置まで揃う国内の供給網

日本の強みは、国内に強固なサプライチェーンが構築されている点にもあります。
フォトレジストの製造には、主成分となる樹脂や感光剤といった高機能な化学材料が不可欠ですが、これらの素材を供給する大手化学メーカーが国内に多数存在します。
さらに、フォトレジストをウエハーに塗布したり露光したりするための製造装置を作る企業も、高い技術力を持つ会社が揃っています。
このように、材料から装置まで、関連するメーカーや工場が国内に集積していることで、企業間の緊密な連携が可能となり、高品質な製品の安定供給と迅速な開発が実現されています。

理由3:顧客の要求に応える緻密な開発体制

半導体メーカーが求めるフォトレジストの性能は、製造する半導体の種類や製造ラインによって細かく異なります。
日本のフォトレジストメーカーは、こうした顧客ごとの多様で高度な要求に応える緻密な開発体制を強みとしています。
例えば、信越化学工業、富士フイルム、住友化学といった大手企業は、半導体メーカーと開発の初期段階から密接に連携し、試作品の提供と評価を繰り返しながら、最適な特性を持つ製品を「すり合わせ」で作り上げていきます。
この顧客に寄り添ったカスタマイズ能力が、高い競争力の源泉となっています。

フォトレジストの今後の展望と最新技術の動向

半導体の高性能化は今後も続き、その進化を支えるフォトレジストにはさらなる技術革新が求められます。
特に、EUV(極端紫外線)リソグラフィを用いた次世代半導体の量産が本格化する中で、より少ない光で高精細なパターンを形成できる高感度なフォトレジストの開発競争が世界的に激化しています。
韓国や台湾の企業も国を挙げた開発を進めており、ニュースでも報じられるように、日本の技術的優位性を維持できるかどうかが今後の大きな焦点です。

次世代技術「フォトレジストS」が拓く可能性

半導体のさらなる微細化に向けて、従来のフォトレジストの限界を超える次世代技術の研究開発が進められています。
例えば、EUV光源の高出力化が難しいという課題に対応するため、より少ない光量でも効率的に反応する高感度な材料が求められます。
これに対し、従来の化学増幅型レジストとは異なる新しいメカニズムを持つ材料や、金属元素を成分に含むメタルレジストなどが開発されています。
これらの新技術は、回路パターンのエッジの粗さ(LWR)を低減し、より精密な加工を可能にすることで、2ナノメートル世代以降の半導体製造を実現する鍵となります。

まとめ

フォトレジストは、半導体の微細な回路を形成するための鍵となる感光性材料であり、その性能が半導体チップ全体の品質を決定づけます。
この市場において、東京応化工業をはじめとする日本企業が世界でトップシェアを維持し、高い技術力で業界をリードしています。
高品質な製品を安定して販売できる開発・供給体制は、日本のものづくりの強みを象徴するものです。
半導体技術の進化はフォトレジストの革新と共にあるため、関連企業の株価や技術開発の動向は、今後も産業界全体から大きな注目を集め続けるでしょう。

用語まとめ

フォトレジスト(Photoresist)
 光に反応して性質が変化する感光性材料。フォトリソグラフィ工程で回路パターンを転写する際に使われる。

フォトリソグラフィ(Photolithography)
 光を用いてウエハー上に微細な回路パターンを形成する技術。半導体製造の中核工程の一つ。

シリコンウエハー(Silicon Wafer)
 半導体デバイスの基板となるシリコンの円盤。フォトレジストの塗布・露光・現像などがこの上で行われる。

フォトマスク(Photomask)
 回路パターンを転写するための原版。光を透過・遮断する部分を持ち、露光時に回路の形をレジストに転写する。

スピンコーター(Spin Coater)
 ウエハー上に液状のフォトレジストを均一に塗布する装置。遠心力を利用してナノメートル単位の膜厚に調整する。

露光(Exposure)
 フォトマスクを通して光を照射し、レジストの化学構造を変化させる工程。光源の波長が短いほど微細化が可能になる。

現像(Development)
 露光後のフォトレジストを薬液で処理し、不要な部分を溶解除去して回路パターンを形成する工程。

エッチング(Etching)
 フォトレジストで保護されていない部分の薄膜や基板を化学的・物理的に除去する加工工程。

アッシング(Ashing)
 エッチング後に残ったフォトレジストを酸素プラズマなどで完全に除去する工程。

ポジ型フォトレジスト(Positive Photoresist)
 光が当たった部分が現像液に溶けるタイプ。高解像度でマスクパターンを忠実に転写でき、先端半導体で主流。

ネガ型フォトレジスト(Negative Photoresist)
 光が当たった部分が硬化して溶け残るタイプ。耐薬品性や密着性が高く、特定用途で使用される。

EUV(Extreme Ultraviolet)
 波長13.5nmの極端紫外線。最先端リソグラフィで使用される光源で、フォトレジストの高感度化が求められる。

化学増幅型レジスト(CAR:Chemically Amplified Resist)
 露光で発生した酸が化学反応を連鎖的に進めることで感度を高めたフォトレジスト。EUV用にも応用される。

メタルレジスト(Metal Resist)
 金属元素を含む新型フォトレジスト。高解像度と低LWR(ライン幅粗さ)を実現する次世代材料。

LWR(Line Width Roughness)
 回路線のエッジの粗さを表す指標。小さいほどパターン精度が高く、次世代半導体では極めて重要。

感光剤(Photo-initiator)
 フォトレジスト中で光を受け取り化学反応を開始させる成分。露光波長に応じて最適化される。

樹脂(Polymer Binder)
 フォトレジストの主成分。化学反応後の形状を保持する役割を持つ。

溶剤(Solvent)
 レジスト材料を液体化するための成分。スピンコート後に揮発し、均一な膜を形成する。

フォトレジストS(Next-Gen Photoresist S)
 次世代EUV対応の高感度材料。従来型より少ない光量で反応し、微細パターン形成を可能にする。

日本のフォトレジストメーカー
 JSR、東京応化工業、信越化学工業、住友化学、富士フイルムなど。世界市場の大半を日本企業が占める。

西進商事コラム編集部

西進商事コラム編集部です。専門商社かつメーカーとしての長い歴史を持ち、精密装置やレーザー加工の最前線を発信。分析標準物質の活用も含め、さまざまなコラム発信をします。