2025.10.03

省電力半導体とは?省エネの仕組みや消費電力を抑える技術を解説

省電力半導体とは?省エネの仕組みや消費電力を抑える技術を解説

省電力半導体とは、電子機器の性能を維持または向上させつつ、消費電力を極力抑えるように設計された半導体の総称です。
デジタル化の進展に伴い、世界の消費電力量は増加の一途をたどっており、環境負荷の低減と経済活動の維持を両立させるための省エネ技術が不可欠となっています。
このような社会的要請に応えるため、半導体の省電力化は重要な技術課題と位置づけられています。
低消費電力で高い性能を発揮する半導体は、持続可能な社会を実現するための鍵を握る技術の一つです。

なぜ今、省電力半導体が必要とされているのか?

現代社会では、AIやIoT、5G通信などの技術が急速に普及し、取り扱われるデータ量が爆発的に増加しています。
これに伴い、データを処理するデータセンターや通信機器、個人のスマートフォンに至るまで、あらゆる電子機器の電力消費が増大し、社会全体のエネルギー問題に直結しています。
また、世界的な脱炭素化の流れの中で、企業は事業活動における環境負荷の低減を強く求められています。
省電力半導体は、機器の性能向上と電力消費の抑制を両立させることで、これらの課題を解決する不可欠な技術として注目されています。

省電力半導体がエネルギー消費を抑える仕組み

半導体の消費電力は、主に「リーク電流」と「スイッチング動作」によって発生します。
リーク電流は、トランジスタがオフの状態でも微量に流れてしまう電流であり、スイッチング動作では、オンとオフの切り替え時に電力が消費されます。
省電力半導体は、これらの電力損失を最小限に抑える仕組みを備えています。
具体的には、トランジスタの構造を改良してリーク電流を減らしたり、より低い電圧で動作するように設計したりすることで消費電力を低減します。
また、新材料の採用によって電力変換効率を高めるなど、様々なアプローチでエネルギー消費を抑制しています。

省電力化を実現する4つの主要技術

半導体の省電力化は、単一の技術だけでなく、設計から製造、実装に至るまでの様々な技術の組み合わせによって実現されます。
代表的なアプローチとして、回路線幅を微細化してチップを高密度に集積する技術や、複数のチップを効率的に接続するパッケージング技術が挙げられます。
さらに、従来の電気信号に代わって光で情報を伝送する光電融合技術や、特定の計算処理に特化させて電力効率を高める設計技術も重要です。
これらの技術革新が、電子機器の性能向上と省電力化の両立を可能にしています。

チップを高密度に集積する技術

半導体の省電力化における基本的な技術が、回路の線幅を微細化することによる高密度集積です。
回路を細く、トランジスタを小さくすることで、同じ面積のチップにより多くの回路を搭載できます。
これにより、電子が移動する距離が短縮され、信号伝達に必要なエネルギーが減少し、消費電力の削減につながります。
また、チップ全体の小型化も可能となり、機器の省スペース化にも貢献します。
近年では、チップを縦方向に積み重ねる3次元集積技術も開発が進んでおり、さらなる性能向上と省電力化が期待されています。

複数のチップを一つにまとめるパッケージング技術

チップレット技術に代表される先端パッケージング技術は、省電力化に大きく貢献します。
この技術は、機能ごとに製造された複数の小さな半導体チップ(チップレット)を、一つのパッケージ基板上に高密度で実装するものです。
従来の一つの大きなチップで構成する場合と比較して、各チップを最適なプロセスで製造できるため効率が良く、チップ間の配線距離を大幅に短縮できます。
データ伝送距離が短くなることで、信号の遅延やエネルギー損失が抑制され、システム全体の消費電力を効果的に削減することが可能です。

電気信号を光に置き換える光電融合技術

光電融合技術は、半導体チップ間やチップ内部の信号伝送を、従来の電気信号から光信号に置き換える革新的なアプローチです。
電気信号は配線が長くなるほど、信号の劣化や熱によるエネルギー損失が大きくなるという課題を抱えています。
一方、光信号は高速で大容量のデータを低損失で伝送できるため、発熱を抑えながら通信性能を飛躍的に向上させることが可能です。
この技術により、データセンターのサーバーなどで課題となっている配線での電力消費を大幅に削減し、極めて低消費電力な情報処理基盤の実現が期待されています。

特定の処理に特化したチップの設計技術

あらゆる処理に対応できる汎用プロセッサとは異なり、AIの推論や画像処理など、特定の用途に絞って回路を設計する技術も省電力化に有効です。
特定用途向け半導体(ASIC)などがこれに該当します。
汎用プロセッサは様々な命令を実行するために多くの回路を備えていますが、特定の処理を行う際には不要な回路も待機電力を消費してしまいます。
処理内容を特化させることで、不要な回路を徹底的にそぎ落とし、必要な機能だけを最適化して実装できるため、処理性能を最大化しながら消費電力を大幅に抑制することが可能になります。

省電力半導体が活躍する主な分野

省電力半導体は、現代社会を支える様々なエレクトロニクス製品に不可欠な存在となっています。
特に、膨大な電力を消費するデータセンターや、バッテリー駆動時間が重視されるスマートフォンなどのモバイル機器では、その重要性が際立ちます。
また、EV(電気自動車)の性能を左右するパワー半導体の分野や、太陽光発電などの再生可能エネルギーを効率的に利用するシステムにおいても、エネルギー損失を抑えるためのキーデバイスとして活躍の場を広げており、その応用範囲は今後も拡大していくことが見込まれます。

データセンターの消費電力を削減する

AIやビッグデータの活用が拡大するにつれて、データセンターの電力消費量は世界的に急増し、深刻な課題となっています。
データセンターでは、サーバーを構成するCPUやメモリ、ネットワーク機器などが膨大な電力を消費しており、これらの半導体を省電力なものに置き換えることが不可欠です。
低消費電力な半導体を導入することで、サーバー自体の電力消費を抑えるだけでなく、半導体から発生する熱も減少します。
これにより、サーバーを冷却するための空調設備の負荷も軽減され、データセンター全体のトータルな電力コスト削減に繋がります。

モバイル機器のバッテリーを長持ちさせる

スマートフォンやノートパソコン、ウェアラブルデバイスなどのモバイル機器において、バッテリーの持続時間は製品の利便性を決定づける重要な要素です。
これらの機器に搭載されるプロセッサや通信チップなどの主要な半導体の低消費電力化は、バッテリー駆動時間を延長させる上で極めて重要となります。
省電力性能に優れた半導体を採用することで、一度の充電でより長く機器を使用できるようになり、ユーザー体験が向上します。
また、バッテリー自体の小型化も可能になるため、製品全体の軽量化やデザインの自由度向上にも貢献します。

EV(電気自動車)の航続距離を伸ばす

EVの普及において、一回の充電で走行できる航続距離は最も重要な性能指標の一つです。
この航続距離を左右するのが、バッテリーの電力をモーターの駆動力に変換するインバーターなどに使われるパワー半導体です。
従来のシリコン製に代わり、電力変換効率に優れるSiCやGaNといった新材料を用いたパワー半導体を採用することで、電力の損失を大幅に低減できます。
これにより、バッテリーに蓄えられたエネルギーをより効率的に走行に利用できるようになり、航続距離の延長が実現します。

再生可能エネルギーを効率的に活用する

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを有効活用するためには、発電した電気を無駄なく使う技術が不可欠です。
発電された直流の電気を、家庭や送電網で利用できる交流の電気に変換するパワーコンディショナでは、内部に使われる半導体の性能がエネルギー効率を大きく左右します。
電力変換時の損失が少ない、省エネ性能の高いパワー半導体を用いることで、発電した貴重なエネルギーをロスなく最大限に活用することが可能になります。
これにより、再生可能エネルギーの普及と安定供給に貢献し、脱炭素社会の実現を後押しします。

自社に最適な省電力半導体を選ぶ際のポイント

自社の製品に省電力半導体を導入する際は、単にスペック上の消費電力の低さだけで判断するのではなく、多角的な視点での検討が求められます。
まず、製品の用途や求められる性能に応じて、半導体を構成する材料の特性を比較することが重要です。
また、初期の導入コストだけでなく、運用時の電力削減効果を含めた長期的なトータルコストを試算し、費用対効果を見極める必要があります。
これらの要素を総合的に評価し、自社のビジネス戦略に最も合致する半導体を選定することが成功の鍵となります。1つ1つ詳しく見ていきましょう。

使用されている材料の特性を比較する

省電力半導体の選定において、ベースとなる材料の特性理解は不可欠です。
従来の主流であったシリコン(Si)に加え、近年ではSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった次世代材料が台頭しています。
例えば、SiCは高耐圧・大電流の制御に優れ、EVや産業機器のインバーターに適しています。
一方、GaNは高速でのスイッチング動作が得意なため、データセンターの電源や急速充電器などに向いています。
それぞれの材料には得意な動作領域や製造上の特性があるため、製品の仕様や要件と照らし合わせ、最適な材料を選択することが重要です。

導入コストと長期的な電力削減効果を試算する

省電力半導体、特にSiCやGaNなどの新材料を用いた製品は、従来のシリコン製半導体に比べて部品単価が高い傾向にあります。
そのため、初期の導入コストだけを見ると、採用をためらうケースも考えられます。
しかし、これらの半導体は電力変換効率が高いため、製品運用時の消費電力を大幅に削減できます。
これにより、ランニングコストである電気代の低減が期待できるほか、発熱が少ないため冷却機構を簡素化でき、周辺部品を含めたシステム全体の小型化やコストダウンにつながる可能性もあります。
初期投資と長期的なリターンを総合的に評価することが重要です。

まとめ

省電力半導体は、AIやIoTの普及によるデータ量の増大と、脱炭素社会への移行という二つの大きな社会的要請に応えるための基幹技術です。
回路の微細化や新材料の採用、設計の最適化など、多岐にわたる技術革新によってその省電力化は進められています。
データセンターからモバイル機器、自動車、エネルギー分野に至るまで、あらゆる領域でエネルギー効率の向上に貢献し、持続可能なデジタル社会の実現を支えています。
今後も技術開発は加速し、その重要性はさらに高まるため、企業は自社の競争力強化に向けて、この分野の動向を継続的に注視していく必要があります。

用語解説

1. 省電力半導体(Low-Power Semiconductor)

電子機器の性能を維持しながら、消費電力を最小化するよう設計された半導体。AI・IoT・データセンター・EVなど、エネルギー効率が課題の分野で活躍。

2. リーク電流(Leakage Current)

トランジスタが「オフ」状態でも流れてしまう微小な電流。微細化が進むと増加しやすく、省電力化の大きな障害となる。

3. スイッチング動作(Switching Operation)

トランジスタがオン/オフを切り替えるときに発生する動作。切り替えの際に電力が消費されるため、省電力設計ではこの損失を抑える工夫が重要。

4. 微細化(Miniaturization / Node Shrink)

半導体チップの回路線幅を縮小すること。トランジスタが小型化することで、同じ面積に多くの回路を集積でき、省電力化と高性能化を両立できる。

5. 3次元集積技術(3D Integration)

チップを縦方向に積み重ねる技術。配線距離を短縮して信号遅延や電力消費を抑えることができる。

6. チップレット(Chiplet)

機能ごとに分割して製造した小型チップを1つのパッケージに統合する手法。無駄を減らし、効率的に性能と省電力を両立できる。

7. 光電融合技術(Optoelectronic Integration)

電気信号の代わりに光信号で情報を伝送する技術。配線ロスや発熱を抑え、データセンターなどで大幅な省電力を可能にする。

8. ASIC(Application Specific Integrated Circuit)

特定用途に特化した半導体。不要な機能を省き、必要な処理だけを高速かつ低消費電力で実行できる。

9. パワー半導体(Power Semiconductor)

大電流や高電圧を制御する半導体。EVのモーター駆動や再生可能エネルギーの電力変換に不可欠。

10. SiC(炭化ケイ素:Silicon Carbide)

次世代パワー半導体の材料。高耐圧・高温動作に優れ、EVや産業機器の電力効率を改善できる。

11. GaN(窒化ガリウム:Gallium Nitride)

高速スイッチングに適した次世代材料。データセンターや急速充電器など、高効率な電力変換が求められる分野で注目。

12. High-k材料(High-k Dielectric)

高誘電率を持つ絶縁膜材料。薄くても電気的な絶縁性を維持でき、リーク電流を抑制できる。代表例は酸化ハフニウム(HfO₂)。

西進商事コラム編集部

西進商事コラム編集部です。専門商社かつメーカーとしての長い歴史を持ち、精密装置やレーザー加工の最前線を発信。分析標準物質の活用も含め、さまざまなコラム発信をします。